赦しの先に|『さらば愛しき大地』|A面
★
初回からハードな作品です。
あらすじ
柳町光男監督がある家族の崩壊を描くドラマ。茨城県の農家・山沢家。ダンプの運転手として一家を支える幸雄は、ふたりの息子を突然失った悲しみから荒れた生活を送っていた。そんな中、幸雄は弟の恋人だった順子と恋仲になるが…。*1
発掘結果(1)赦しを問うストーリー
この作品の一番の魅力は、そのストーリーにあります。あらすじから、暗さがわかるでしょうか。とっても暗いです。心が抉られます。
主人公の幸雄は、罪人なのか、はたまた、犠牲者なのか。そして、そんな彼は赦されるのだろうか。
赦されたとしても、それは誰に、どうやって?そもそも、赦しとはなんだろうか。
私たちは、倫理観や規範、常識を崩しながら、彼の赦しを問うことになります。
圧倒的な人間の運命を感じながら、どうしようもなさの中に、赦しの先を感じることはできるでしょうか。
赦しの先とは、どんな景色でしょうか。
発掘結果(2)俳優たちの熱演
熱演なんて言うと、言葉が足りない感じがします。
主人公を演じたのは、根津甚八さん。主人公を愛してしまう女性に、秋吉久美子さんです。
根津さんが素晴らしいのは言うまでもありません。秋吉さんがまた、とても良いパトーナーシップを発揮しているのです。
彼女の切なさは、その背中が体現しています。スナックで歌う、中島みゆき「ひとり上手」。決して上手くはない歌声に、涙が止まりません。
根津さんの狂気は、誰も分かってはいけないと思います。根津さん自身に何かが憑依したかのような、真っ黒な瞳に注目です。
発掘結果(3)鹿島の風景 開発を問う
舞台となり、ロケ地となったのは、茨城県の鹿島地方です。ここは、監督である柳町光男の生まれ故郷でもあります。
工場地帯の開発が大規模に行われる中、小規模ながらに続けられる稲作。開発と自然破壊、地方の貧困、そして、衰退...。
そうです、撮影地となり、舞台になった時代1980年代初頭において、鹿島の開発は終了したのです。(1984年に開発収束宣言が出されている。)
映された風景は、どこか寂しい。それは、まさに衰退を迎えた工業地帯のリアリティそのものを感じてしまうからなのかもしれません。
どこを見渡しても見える工場の煙突。稲穂が育ち、刈られていく季節の循環。この二つのコントラストが、鹿島の風景を作り出します。
この風景があるからこそ、ストーリーも、俳優も、生きてくるのです。
風景に心惹かれてみるのも、映画の一つの楽しみであります。
発掘結果 まとめの一言
できるなら、掘り起こしたくはなかったね。と思うくらい、残酷な観ごこちです。
でも、私の宝物になりました。映画を観るということは、楽しいだけじゃないんですね。
作品情報・配信情報
『さらば愛しき大地』
制作年:1982年
監督:柳町光男
Amazon Prime Videoで配信中
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本編を見たあとは
分析エッセイ(B面)もどうぞ。