驚きと確信|『江分利満氏の優雅な生活』|A面
★
開始3秒で確信する、これは面白いぞと。
あらすじ
昭和30年代後半、大手洋酒メーカーに勤めるサラリーマン江分利満(小林桂樹)、36歳。何をやってもおもしろくない無気力な日々が続く中、ふとしたことで彼は小説を書くことになり、戦争のこと、父のこと、妻子のことなど、平凡だが一生懸命な自分たちの人生を綴っていく。やがて小説は直木賞を受賞するのだが...。
発掘結果(1)昭和を理解する。
今となっては、非難の対象となってしまった「昭和」。
働き方、考え方が古い=「昭和」という方程式が定着したのはいつからでしょう。
私のような23歳も、やっぱりそう思います。今に「昭和」の価値観はいらない!と思うのです。
しかしですね、敵のことを何にも知らずに、ただ非難するのもどうなんでしょう、なんて思ったりするのです。
まずは敵を理解するのがいいのです。そのためには、この映画なのです。
この作品はいくつかの昭和ポイントがありますが、いくつかの驚きの昭和ポイントもあるのです。
働き方、考え方が「古い」のは、朝まで若い後輩を飲みから解放しない、主人公 江分利氏の振る舞いからよくわかります。
しかし、その中で江分利氏が語ることは、意外にも、悲しみの「昭和」史だったりするのです。
すっかり「昭和」は、戦後の話だと思っていた私は、偶然にも必然にも気づくのです。そうか、「昭和」って、戦前も含むのだなと。ああ、「昭和」は「戦争」の時代だったのだな、と。
古臭く見える、批判の対象の「昭和」だけど、それだけで「昭和」は語るべきではないのです。それを、江分利氏は教えてくれます。
発掘結果(2)天才を確信する。
監督の岡本喜八は、他の作品でも私の胸をギュンと掴んで離しません。
なので、他の岡本作品を観たことある人はもちろん、岡本喜八入門としても
最高の作品になっております。
そうです、岡本喜八は天才なのです、確信いたします。
なぜ天才なのか!それは「映画的遊び心」に溢れていることです。
例えば、ジャンプカット、スローモーション、舞台的なセッティング、カメラ目線ショット、そしてアニメーション...などなど。
今となっては普通に思えるかもしれないけれど、東宝のプログラムピクチャーとしてはかなり画期的/挑戦的な試みではないのでしょうか。
それもそう、この作品の思いもよらぬ「遊び」によって、上映はヒットせず、打ち切りとなってしまったそう。
岡本喜八は他にも『殺人狂時代』というカルト作品を生み出していますが、この作品もその系譜に並びます。(最高峰は『近頃なぜかチャールストン』です!)
この「遊び心」は2021年でも全く色褪せない!こんなに凄い、あんなに凄い、マジカルな映像に驚きました。発掘しがいがあるネ。
発掘結果(3)江分利氏に癒される。
癒されるなんて書いたら怒られる気がするような。
でも私はなぜか、この「昭和おじさん」江分利氏をものすごく愛らしく感じてしまったのです。
酒が入ると話が止まらなくなる。会社では除け者にされている。奥さんが支えてくれる。スーツは二着しか持っていない。悲しい記憶がある。死にたいと思っていた。だけど、なんだかんだで幸せ...?
江分利氏を演じた小林桂樹さんが良いのか、それとも江分利満氏というキャラそのものが良いのか、なんなのか。
この癒しの正体は、愛らしい気持ちの正体は、なんなのか!どこか憧憬に近いものがあるような気もします。
発掘結果 まとめの一言
新しい!クラシック日本映画ってつまらないでしょう?モノクロ映画はちょっと...っていう概念をぐるりと変えます。驚きと、確信!
作品情報・配信情報
『江分利満氏の優雅な日常』
製作年:1963年
監督:岡本喜八
本編を見た後は
分析エッセイ(B面)もどうぞ!